望まぬままに舞台が移り変わることが人生なのかも(失踪者たちの画家読了)

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原題:The Artist of the Missing
1999年発表。本書は2013年刊行。

腹が下りそうな兆候を示している。図書館にはきちんときれいなトイレが併設されているが、手元には他に借りたい本がある。一旦貸し出し処理をするか、この目の前の本棚から欲しい本を選ぶか。もう少しで決まりそうなのだ。
と、腹痛と闘いながら手に取った本がこれ。最近図書館に来るといつも体調不良と闘っている気がするな。

失踪者たちの画家


特に予備知識もなく読み始めたので冒頭から驚いた。幻想小説だ!
掴みどころのない都市、掴みどころのない文章。文体は読みやすいが情景が思い浮かべられるかは自分の想像力次第。私は発想が貧困なので、二、三ページ読み進めては戻ってもう一度文章を読んだりなどした。二度目に読むと情景が頭に入ってきやすかったのだ。

アリス的と言っていい、不可思議な世界のルールに翻弄される主人公のフランク。確かに主人公は「失踪者たちの画家」ではあったけれど、それは一面でしかない。自分が望まぬままに舞台が移り変わり、金を稼ぐ時もあれば全て失う時もあり、命の危機にさらされたかと思えばまた職にありつけ……人生そのものみたいだな。
また、このふわふわとしたような幻想で周辺の人物が割と再登場するのがユニーク。少しネタバレになるかもしれないが、序盤で家を出たエヴリンがまた出てくるとは思わなかった。ジェームズもそうだ。序盤でフランクの金を持っていなくなった時はなんだコイツはと思ったが、なんだかんだで縁が続いていき、また離れていくのがユニーク。
序盤から「フランクが裁判官の服を洗濯する仕事についていた」中盤で「裁判をせずに投獄される」という出来事を経て見る裁判官の下りは、まさか回収されると思っていなかったので驚いた(顛末はやはり奇天烈だ)。そのルールに則るフランクも面白い。

プルーデンスの失踪は予想に反してかなりはっきりとした予兆が描かれていた。彼女は「裏切らずにはいられない女」であり、失踪者のポスターの話を聞いた直後にいなくなったのであり、持ち物からプレートから何まで持ち去っていることから彼女自身の意思による失踪と見ていいだろう。そしてフランクは、節目節目で彼女の影を追うことによって事態を悪化させてしまう(監獄ではある意味救われたのかもしれないが)。

「物語」が入り混じっていて解釈が難しいが(監獄を全て押し流す水として描写されていたものが、実は革命軍との戦闘だった、とか?)、他者であるコンラッドもプルーデンスを認識しているので、彼女自体は存在していたのであろう。ただし、都市全体がフランクの幻想でなければの話だが。

しかしこの作品は訳者あとがきにあるように、あらすじを書いたところで何のこっちゃになるような話である。フランクと共に事態に翻弄され、意味のわからない状況に放り出され、それでも続いていくフランクの人生の一端を眺めるような作品だ。幻想を幻想のままにする幻想小説でもある。

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読書
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