もう長くトイレに篭ってスマートフォンで検索し続けている。「書影は朧げながらわかるがタイトルがわからない」という本を探すのは難しい。タイトルか作家名さえわかれば、わかれば……。
図書館のレファレンスに聞こうか真剣に悩んだ。
「10年ほど前に読んだ海外作家(フランス?)の幻想小説で、街にまつわる話が収録されている本を探しています。
ハードカバーの本で、全体的に表紙は白く、表紙中央に四角く表示された絵があったと思います。絵の内容は路地裏のような場所で、表紙に表示されているタイトルは青い文字だったように記憶しています。…」
ここまで書いて手を止めた。一旦自分でも検索をしてみよう。
耽美系や幻想文学をメインに取り扱ってそうな古書店のオンラインショップでページをひたすらめくる。ない、ない、あ、この本面白そうだな……。
読みたい本が増えただけで終わったので、今度はTwitterで検索をかけてみる。「フランス 幻想 小説 pic」書影を見つけたいので写真が添付してあるツイートを検索するために「pic」を入れておく。
で、見つかったかどうか。
結論を言うと、あった。
マルセル・ブリヨンの短編集「旅の冒険」であった。(今Googleの画像検索でも見つかった)こういう検索ができたのは、小説のジャンルと作者の国籍をなんとなくでも覚えていたからだろう。本当に書影しか分からなかった場合の難易度は考えたくない。
2011/06発売とのことで、記憶にあるおよそ10年前というのは概ね正しかったのではないかと思う。上に書いたレファレンス宛(未遂)の文章と実際の表紙を見比べると、絵の内容は違うように感じるが。
弟が買った本だった。「自分には合わないから」と手放そうとしている本で、その前に少し読ませてもらったのだった。その後弟が手放したかどうか記憶にない。私が引き取ったのだったか。どちらにせよすぐに取り出せる場所にないことだけは確かなので、図書館で貸出予約をした。
読み返したいと思った理由は「失踪者たちの画家」を読んでいて、街のどこか輪郭のつかめない雰囲気が、なんとなくこの短編集の街の雰囲気を連想させたからだ。とはいえ10年前のことなので、その連想が正しいかどうかは分からない。
というわけで再読である。
深更の途中下車地
正面のない町、と言われる建物の正面しかない街にふとした気持ちで降り立った主人公。
初読時はあまり気づかなかったが、幻想小説とは描写そのものを楽しむものなのだな、と実感させてくれた。うら寂しくも建物の正面しかないため、どこかすっきりと見えそうな町の描写を読んでいるだけで楽しい。
最後は列車に乗れたものの、ではそれはどこに辿り着くのだろうか。
「失踪者たちの画家」を読んでいて連想したのはこの話のように思う。
恐怖の元帥
死んでは生き返って戦闘に参加する老兵士と出会った私は、農家の家に二人で辿り着く。そこに疲れ果てた「恐怖の元帥」がやってくる。疲れ果てているため、あまり「恐怖の元帥」感がない、大きな老人である。
その後なぜか農家と繋がった城館にやって来る「恐怖の元帥」と老兵士と私。
城館の描写はタペストリーが印象的だった。
恐らく死にゆく元帥と、見守る老兵士と、女と、着いてきた私。そのまま農家に戻る私。
火のソナタ
おそらくこの短編集の中で一番わかりやすい話かもしれない。たまたま列車に乗り合わせた、ヴィヴァルディの未発表曲「火のソナタ」を弾いていた男が、悪魔に目をつけられたか実際に火災遭ってしまう経験を話し出す。
旅の冒険
冒頭の熱そうな火山地帯の描写、初読時に印象的だった箇所だ。
死者の国で食べ物を食べない、と思い出して口にしなかったのに「死の公子」に結局魅入られてしまう。
訳注にもあるように、死者の国で食べ物を口にしてはならないというのはペルセポネの逸話然り、よもつへぐい然りよく聞く話。せっかく思い出したのに、旅人の運命は残念ながら……。
女が語る物語と旅人のラストが重なる物語の入れ子構造、シンプルながらも好き。
なくなった通り
実は当初「失踪者たちの画家」を読んでいて連想したのはこの話だと思っていたのだが、実際に読んでみると違ったようだ。
夜中に響く音が気になって倉庫群を調べてみたら、見たことのない通りに遭遇する。更に調べている内に奇妙な男に遭遇し――。という物語。これも不可思議ながらも「なくなった通り」が何だったのか最後に種明かしされるので、わかりやすい話かと思う。
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