ソニックフロンティアの日本語訳は機械翻訳なのか?

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いくつかソニック関連の記事にアクセスがあるのに気づいた。先月新作「ソニックフロンティア」が発売したのでそれでだろう。

私も発売後すぐにプレイし、一週間ほどでクリアした。本来ならすぐに感想を上げようと思っていたのだが、ソニックフロンティアの翻訳に戸惑い、どう表現していいか分からずに今日まで筆を止めていたのである。正直に言って、発売前の期待とは大きく異なっていた。

日本語(とそれを元に翻訳した韓国語、中国語)は、元々「日本人の開発スタッフによって日本用に「台詞」をすべて書き直したものが日本・アジア版に適応される」と事前に言及されていた。

『ソニックフロンティア』はアメコミで活躍する人気ライターがシナリオを執筆。日本人の開発スタッフによって日本用に「台詞」をすべて書き直したものが日本・アジア版に適応される
完成した物語を日本の開発スタッフが日本人に合わせて「台詞」をすべて書き直していた

その結果がトレーラーにも反映されており、私も本ブログにこのような投稿をした。

ソニックフロンティアのトレーラー台詞比較
2022/11/8発売と告知された「ソニックフロンティア」。 新しいトレーラーでソニックや新キャラのセージが喋っているものが出たのだが、セリフのニュアンスが少し異なっていて面白かったので比べてみる。 英語版トレーラー。 Submit… Yo...

この時期の私は、日英で翻訳比較ができるのを楽しみに待っていた。

さて、肝心のゲーム内での翻訳はどうだったか。

やたらと小難しくぎこちない言い回しの日本語

「法則を無視した力場で操縦の結果が変化してる?ロジックの差異が顕在化して因果の底に落ちて行っている!」

「以前、公開試験射撃で失敗して、そのミスで自信を失くしてる。戦況を左右するほどの重要な切り札だった…… 多くの期待が非難に変わったんだ」

これらはシーンは異なるが、両方ともテイルスのセリフである。
以前から9歳児とは思えない知能を持っていたが、ここまで固いセリフを言うキャラクターだっただろうか?

この二つに対応する英語版のセリフは以下のとおりである。

Wha! There’s some kind of atmospheric charge! Hang on!

No. Their hero didn’t show. They’re worried something’s happend.
It’s like how I couldn’t handle it after Infinite attacked.
One wrong turn and I fall apart…

まったく上手くない拙訳では以下の通り。

うわっ! なにか大気電荷がある! つかまってて!

(Hang on!は飛行機が揺れている状況下では「つかまってて!」が適訳か)

ううん、ヒーローは現れなかったんだ。 彼らは何かが起こったと心配してる
インフィニットに攻撃された時 僕が対処できなかったみたいに
一つ道を間違えて、僕は挫けてしまった…

(この場合の fall apartはバラバラになるというよりは失敗するというニュアンスだろうか)

前者はシンプルな英語を日本語版では複雑で小難しい言い回しにしており、後者はそもそもセリフの内容が全て異なる。日本語版を最初にプレイした人は「翻訳が機械翻訳みたい」と評するだろうが(SNSやSteamのレビューで散見される感想である)、人の手によって大幅に手を加えられていることが分かる。

ちなみに後者の英語版のセリフでテイルスが言及している「Infinite」は過去作である「ソニックフォース」に登場した敵キャラ。今作のシナリオは熱心なソニックシリーズのファンであり、アメコミIDW版のシナリオを手掛けているイアン・フリン氏によって書かれており、過去作に関する言及がかなり多いが、日本語版ではなるべくそれを削ぎ落とす方針のようだ。
この方針自体は「日本(アジア)ではソニックシリーズに馴染みのない人が多いため」と推測する人もおり、個人的にも納得はできるのだが、シリーズファンとしては少し寂しい。

状況と噛み合わないセリフ

ここからシーン自体のネタバレを行いながら記事を書こうと思うので、未クリアの方は注意してほしい。


Image by Frank Winkler from Pixabay

このゲームには序盤から「ココ」というハニワに似た(「もののけ姫」に登場するコダマみたいな)謎の生き物が出てくるのだが、この生き物はどうやらこの世に未練があり、願望が叶うと成仏するらしい。

第一の島でエミーとソニックは恋人同士だったらしきココ達を再会させ、彼らは成仏する。また、その際にココ達の回想?を見ることになり、どうやら連続する敵の攻撃?の中で女性らしきココ(の元の姿)が恋人らしきココ(の元の姿)ところへと必死に駆け寄り、お互い抱きしめあう…という、恋愛的な愛情を表したようなシーンを見ることになる。

その後のカットシーンの日本語のセリフがこれ。

ソニック:まださっきのココのことを考えているのか?

エミー:ええ…あの子はまるで今のアタシ…

好きって想いを伝えるために わき目も振らず一直線
それは確かに素敵だけど…それだけじゃダメなのよ

アタシ 目先の事しか考えて無かった… 今 何をするべきなのか…
それには もっと素敵になるための自分を見つけないといけない

ソニック:なりたい自分を探すのか 何だかまぶしいな

??????

申し訳ないが、個人的にこのエミーのシーンが、このゲームをプレイしていて翻訳に違和感を持った初めてのシーンだった。
このシーンのエミーのセリフは「以前ソニックをなりふり構わず追い掛け回していた自分とココを同一視し、なおかつそれを批判する」ように見受けられる。

果たしてエミーはそういうキャラだっただろうか?

英語原文は以下のとおりである。

Sonic:Hey. Still thinking about the Koco?

Amy:Yeah. And… more.

I’m not sure what happend, but I know what I saw: a love that transcended time. I believe in that power.

When this is over, I want to share that love with the world. Even though… it may take us far apart.

Sonic:I know you’ll do great. I want to hear all about it when you come back.

こちらも拙訳で以下の通り。

ソニック:なあ、まだあのココについて考えてるのか?

エイミー:ええ。…それ以上のことも。

何が起こったのかはわからないけど、私が見たのが何かはわかるわ。時を超えた愛。アタシはその力を信じてる。

これが終わったら、その愛を世界と分かち合いたいの。それが…私たちを遠く離れさせることになっても。

ソニック:きっとうまくいくさ。エミーが帰ってきたら全部聞かせてくれ。

……全然違う。
「エミーはこの事態が終わったら一旦ソニックと離れる」という結論は同じなものの、そこに至るセリフは大きく異なる。英語版のエミーはココたちの愛に感動し、それを世界に伝えたい、としている。
他者…特に弱者に対する愛情深さは「ソニックアドベンチャー」などでも示されているエミーの特徴であるし、英語版のこのシーンの言動はそれを更に一歩大きく進めるものに見える。
日本のスタッフにはそう見えていないのかもしれないが……。

また、別のシーンではソニックがエミーに対して「キミ」と話しかける。私には、ソニックが日本語でエミーに対して二人称を用いた記憶がないのだが、もし例があれば教えてほしい。

そして今思えばティザームービーから窺い知れていたことではあるのだが、林原めぐみ氏演じるセージのキャラクターが英語版と日本語版では真逆と言っていい性格に仕上がっている。英語版のセージは感情があるように見えるが、日本語版セージは無機質な(感情をまだ知らなさそうな)AIキャラとなっている。言ってしまえば綾波レイに近いものがあり、担当声優もそれを意図したものだと感じる。
セージは今作初出のキャラということもあり、個人的にこの変更には違和感をあまり覚えなかった。(少し話の流れがおかしいシーンは見受けられる)

翻訳に関しての総評

全体的に、「無理に日本語版独自のセリフにしようとして話の流れがおかしくなっている、整合性がとれなくなっているシーン」が散見される。
キャラクターごとの口調もあまり意識されているようには見受けられない。どのキャラが喋っているかに関わらず日本語として小難しい言い回しが多発しており、それが結果的にTwitterやSteamなどでの「翻訳がおかしい」という感想になるのではないだろうか。
これが「英語の元のシナリオから悪い」という評価にまでつながるのが悲しい。Steamのレビューを見るとシナリオに関して「電波」という言葉まで飛び出す始末である。しかし、仕方がないことでもある。ここまで大幅に日本語と英語のセリフが異なるのは珍しいし、英語版のセリフを確認するためには英語字幕を読まなくてはいけない。日本語字幕ではカバーされない範囲なので、わざわざ確認しようと思う人の方が少ないのは当たり前のことである。

過去に「ソニックカラーズ」などでソニックのキャラ付けがおかしい時期があり、これを踏まえて日本チーム独自でセリフを書いたのだと推測するのだが……特に今作に関しては、行わなくてもよかった作業のように感じる。

あまり良いことを書けなくて申し訳ないのだが、以上がソニックフロンティアの日本語訳に関する私の感想である。ゲームとしては熱中して遊べたし、近年のシリーズにおいてはなかなか良い出来なのではないかと思う。

あ、ざっと遊んだ限りでは誤訳はほとんどなかったように思う(それ以前にセリフが大幅に書き換えられているためか)。今のところ唯一気になったのはエッグマンの音声メモ24において、「アークステーションスクエア」となっていたところくらいか。なんとアークの中にステーションスクエアがあったとは!アークコロニー内にもステーションスクエアを模した疑似的な都市があったのか?と余計な思考を巡らせてしまったが(楽しかった)、英語原文では「in Station Square and on the ARK」なので、「アークステーションスクエア」となる。
補足しておくと、ステーションスクエアは「ソニックアドベンチャー」の舞台の一部、アークはその続編である「ソニックアドベンチャー2」後半の舞台である。時系列的には英語原文の方が自然だが、日本語訳ではなぜか逆転している…書き間違いではなく、andを見落として訳したのだろうか。機械翻訳でこういう間違いが起きるとは考えづらいので、この誤訳は人力での翻訳っぽさを感じる例になるかも、しれない…?

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