厚い背表紙の本というのは、本棚に並べられていると存在感がある。図書館や本屋に行ってまず目に飛び込んでくるのはそういう分厚い本たち。その本が自分の好みに合うかどうかは置いておいて、ひとまず目には入ってくる。
料理本のコーナーは分厚い本と薄い本の差が特に顕著だと思う。その中に見た目が鮮やかな大判の、3センチほどの厚みのある本が鎮座していた。「いかさまお菓子の本 淑女の悪趣味スイーツレシピ」である。
(3センチが「厚い」に入るかどうかは人によって差を感じると思うが、個人的には厚めの部類に入ると思う)
284ページの本ということでページ数としてはすごく多いというわけではないのだが、使っている本文の紙がしっかり厚みがあるから背幅が増えたのだろう。本文中の写真は綺麗に大きく印刷されている(個人的にはもっと写真点数が多くてもよかったように思うが)。作られるお菓子はファンタジーかゴシック風味の見た目が多く、見ていて楽しい。
レシピもきちんと記載されているが、家でお菓子作りといえば小学生の頃、チョコレートを溶かして再び固めた経験しかない私には作れる気がしない。アメリカ在住の著者なので、20人前のケーキのレシピが普通に載っているし、生クリームを1920ml使うレシピもある。……1kgを超えるのか……。
しかし作れなくても完成品の写真と著者コメントを見るだけでも著者が作り出すファンタジーな世界観に惹き込まれる。ティム・バートンやリドリー・スコットなどの作品から着想を得たと明言しており、「フェイスハガー」や「プレデター バレンタインクッキー」などそのものズバリな作品もある。個人的には「絶叫ベリー」「シュガークッキー墓地」辺りがティム・バートンの作品を連想させて楽しい。
作品ごとに載っている著者のコメントの中で一番気に入ったのは「ブライドジラ・ケーキ」のコメントだ。結婚式に対する皮肉なコメントが強烈で、今読んでいる本がアンブローズ・ビアスの「悪魔の辞典」かと勘違いしそうになったほどだ。「春のヴィンテージウェディングケーキ」などでは平和なコメントをしているのだが。
ファンタジー、ゴシック、ハロウィン、猫……そういうワードに惹かれる人には楽しい本だと思う。
しかしサイリウムをパキッて発光させるレシピ「毒りんごパンチ」には驚いた。
メープルベーコンを入れるケーキにも別の驚きがあった。「朝食などに出てくるベーコンにメープルをかける」までは聞き覚えがあるが、ケーキに入れるほどなのか……。デザートとしてベーコンを捉えたことはなかった。
訳注によればメープルベーコンは2000年代以降アメリカの一部に熱烈に支持されているとのこと。市販でメープルシロップ味のベーコンもあるというのにも驚き。
甘じょっぱいといえばこの本のレシピに「塩キャラメルアップルパイ」が載っているが、塩キャラメルの方は日本でも一時期流行ったな。
著者に関して
著者のクリスティン・マッコーネル氏は元々はインスタグラムで作品を投稿し始めて人気が出たインスタグラマーだそう。
2018年にはNetflixオリジナル番組として制作された「クリスティンの奇妙なお菓子教室」というドラマ仕立ての料理番組に出演している。こちらでは著者が料理しているシーンが見られる。
猫(スフィンクス種?)が可愛かったな。
自身のYouTubeチャンネルもある。料理はしていないようだが、ゴシックホラーな雰囲気のある動画を投稿している。
本人のインスタはこちら。
https://www.instagram.com/christinehmcconnell/
彼女の詳しい来歴はGQ Japanに投稿されたこの記事が詳しい。
奇妙なお菓子作りの達人の2019年の新たな挑戦:クリスティン・マッコーネル『From The Mind Of Christine McConnell』──「モダン・ウーマンをさがして」第16回
記事は「いかさまお菓子の本」の邦訳を担当された野中モモ氏によって書かれている。
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